家庭菜園では「固定種」のタネをオススメします

2021年2月19日

家庭菜園で野菜を育てるとき、例えば大根だけでもいろんな種類のタネが売られているので、どのタネを買ったらよいか迷いませんか?

私も家庭菜園を初めて間もない頃は、たくさんありすぎてどう選んだらよいか分からなかったので、とりあえず、「育てやすい」「病気に強い」「見た目がきれい」などのタネを買っていました。タネ袋には「F1」や「一代交配」といった文言が書かれており「どういう意味だろうな?」と思っていました。

しかし、下記の野口勲著『タネが危ない』を読んでからは、できるだけ「固定種」のタネを買うようになりました。その理由をこのページで書きますのでぜひ最後までお付き合いください。

<目次>

  1. 「固定種」「F1種」とは
  2. 「F1種」のメリット
  3. 「F1種」のデメリット
    • 味の個性がなくなった?
    • 毎年タネを買わないといけないし、結構高い
    • 多様性が失われることのリスク
    • 雄性不稔を使っていることについて危険性の指摘がある
  4. 家庭菜園ではぜひ固定種を!その理由
    • 「家庭菜園は固定種がいい」
    • 伝統野菜は生きた文化財、ぜひタネ採りも
    • 種苗法の改定について
  5. 野口種苗店の「アロイトマト」は超おいしかった

1.「固定種」「F1種」とは

固定種」「F1種」とはそれぞれ次の定義になります。

(引用)

「固定種」
地域で何世代にも渡って育てられ、自家採種を繰り返すことによって、その土地の環境に適応するよう遺伝的に安定していった品種。

「F1種(一代雑種、交配種)」
異なる性質のタネを人工的に掛け合わせて作った雑種の一代目。現在世の中に流通している野菜や花のタネの多くがF1である。

野口勲著 『タネが危ない』裏表紙より引用

メンデルの法則により、異なる系統の遺伝子をもつ両親をかけ合わせると、その子どもたちは、見た目が均一に揃ったり、生育が早まったり、収量が増大したりする性質をもちます。この性質を生かして開発された野菜のタネがF1の種です。

しかし、メンデルの法則どおり、これらの性質は子どもたちの代(F1)だけであって、孫たちの代(F2)になると均一に揃ったりすることはなくてバラバラの性質になります。よって、交配したタネとして売られているのは、子どもたちの代(F1)に限ったものです。

2.「F1種」のメリット

「均一に揃う」「生育が早まる」「収量が増大する」という性質は、農家さんにとっては素晴らしいメリットがあります。規格どおりの野菜ができ、機械化や出荷もしやすいですし、畑が一気に空くので農地も有効に使えます。

また、最近は病気に強い性質をもつように交配されたものも多く、安定した収穫が見込まれます。安定した収穫が見込まれるということは、私たち消費者もスーパーで手頃な値段で野菜が手に入れることができます。世界の人口は現在77億人。土地や水、肥料などの資源も限られています。

以前読んだ石井光太著『絶対貧困 世界リアル貧困学講義』という本には、「貧しい国で肥満の人が多く、貧しいというけど実際には食べたいものをいっぱい食べて豊かな生活をしているんじゃないの?と言われることがあるが決してそうじゃない、野菜のようなカロリーのほとんどないものは贅沢品で、フライドチキンのような高カロリーのもので生命を維持している、結果、肥満体になる」というようなことが書かれていました。

野菜が手軽な値段で購入できるというのは本当にありがたいことです。現在日本で流通している野菜のほとんどはF1の野菜になっているそうで、私も間違いなくその恩恵に預かっています

3.「F1種」のデメリット

味の個性がなくなった?

前述の著書『タネが危ない』には、1971年野菜生産出荷安定法によって全国の産地で単一の作物を大規模に同じ場所で作るようになった、これにより野菜が病気にかかりやすくなり耐病性をつけることや、流通に耐えられるようにF1のタネが品種改良されていったこと、また、外食産業からのニーズで味つけしやすいように野菜自体にはできるだけ味がなく機械調理に適した野菜が求められるようになったこと、農地を有効活用できるように早く収穫できるものが求められるようになったこと等が述べられています。
つまり、味は二の次としてF1種が開発されていった背景があるようです。これによってその野菜が持つ本来の美味しさや味の個性が損なわれていったとのことです。

ただ、私は個人的にはF1種でも、サカタのタネのミニトマト「アイコ」や、同じくサカタのタネの小カブ「あやめ雪」などは美味しいなぁと思います。私は一応まだ(?)40代なので、昔の野菜と比べてどうだというような品評ができず、美味しい美味しくないというのは正直分かりません。

・関連記事: 「あまうま小かぶ あやめ雪」を育ててみた

でも、そもそも固定種はずっと引き継がれてきたものなので、単純に、美味しいから引き継がれてきたんだろうなと思います。

毎年タネを買わないといけないし、結構高い

F1種は一代目(F1)しかその良さが現れず、二代目(F2)になるとバラバラの形質になりますので、一度F1のタネを使うと今後ずっとタネを購入しないといけなくなります。また、そもそも雄しべが出来ない(単独ではタネが出来ない)ものも多いようです(後述します)。

毎年タネを買わないといけないということは、もしタネの価格が上がってしまうと、家庭菜園でももちろん痛手ですが、農家さんも経費が増えることになるため野菜の値段も高くなってしまいます。よって、タネを毎年買わないといけないというのは潜在的なリスクを抱えていることになります。

なお、現時点でもF1のタネは高いです。一般的に売られているもので400円以上しますし、500円以上するものも多いです。しかも中身は10粒ほどしかないものもあります。

一方、固定種のタネは概して安いです。以前、白菜の「京都3号」を162円(1500粒)で、大根の「青首宮重長尻大根」を220円(400粒)というのを楽天の日光種苗さんで買ったことがあります。発芽率もバッチリでした。

昨今「持続可能な社会」ということが叫ばれていますが、一回しか使えないタネって、もうその時点で持続可能じゃないですよね。

多様性が失われることのリスク

固定種のタネを撒くと、背の高いもの低いもの、育ちが早いもの遅いもの、病気に強いもの弱いものなどいろんな性質の野菜が育ちます。このことは、気候変動やなんらかの病気が流行った場合でも生き残るものがあり、全滅を回避できることにつながります。

雄性不稔を使っていることについて危険性の指摘がある

F1のタネを作るには、目的の父親と母親のおしべとめしべを掛け合わせる必要がありますので、自然の状態で植物が勝手に受粉をすることを防ぐ必要があります。

そのために、昔は、花が開く前に雄しべを取り除いたり(※1)、何代にもわたって純粋な系統を作って自ら受粉することを防ぐ状態(※2)を作り上げたうえで別系統のものと掛け合わせたりしていたようです。想像しただけで、ものすごく手間だなと思います。このことについては、通常の品種改良なので特に危険性がうんぬんという話ではないようです。

※1 これを除雄(じょゆう)というそうです
※2 これを自家不和合性(じかふわごうせい)というそうです。人間でも近親婚を繰り返していると、こどもができなくなるのと同じようなイメージだそうです

ある時、偶然、突然変異で「雄しべを持たないもの」が現れました。これは利用できる!ということで広まっていったところから話は変わってきます。

この「雄しべを持たないもの(※3)」は「雌しべだけがある状態」です。よって、これを母株として育て、F1のタネを作る際に掛け合わせたい父親となる野菜を近くで育ててミツバチを放せば、楽にF1のタネができるようになります。

※3 これを雄性不稔(ゆうせいふねん)というそうです

「除雄」や「自家不和合性」によるF1づくりに比べたら、手間は雲泥の差です。よって、この突然変異で偶然現れた「雄性不稔」の個体を大事に大事に増やしていき、現在ではF1の種のほとんどがこの「雄性不稔」の個体を使って作られるようになったとのこと。

「除雄」や「自家不和合性」を利用したF1ならリスクがどうとかいう話ではないけれども、前述の著書『タネが危ない』によると、「雄性不稔」を使って作られたF1のタネに危険性があるのではないかと問題提起されています。

詳しくはぜひ本をお読みいただきたいのですが、ざっくり言うと、

  • 動物にも植物にも細胞の中に必ずミトコンドリアが存在し、これが生命の活動の源であること、
  • 「雄性不稔」はミトコンドリア異常で生命エネルギーに欠損があり子孫を生み出せないなものであること、
  • 現在流通している野菜はほとんどがF1、しかも雄性不稔を使ったF1であると思われ、我々は日常的にミトコンドリア異常のものを食べていることになる

ということです。この「雄性不稔」を利用して作られたF1の野菜は、おしべができないのでその植物単独ではタネができない(子孫を残せない)ことになるようです(※4)。ミトコンドリア異常の野菜を日常的に食べている人間は大丈夫なのか、不妊症の増加の原因になっているのではないか、さらにあくまで仮設だと断ったうえで「ミツバチの大量失踪」も雄性不稔の植物の受粉をしていることが原因ではないか、と述べられています。

このことは科学的に証明されたことではありませんので、真実は分かりません。真実が明らかになる研究が進めばよいなと思います。ともあれ、こういう危険性の指摘があるということは知っておいた方が良いと思います。

※4 この辺りが私も理解が十分ではなく、少し混乱しています。例えばF1のトマトは多くありますが、普通に雄しべができて自家受粉して実がなっているように思うのですが・・・もしどなたかお分かりでしたら教えてください。

4.家庭菜園ではぜひ固定種を!

「家庭菜園は固定種がいい」

F1種のメリット・デメリットについて述べてきました。

家庭菜園では、

  • 規格を気にする必要がない
  • 流通に耐えられるかどうかは関係ない
  • 多少失敗しても全滅しなければOK
  • 早く大きくなっていったものから順次収穫していけばよい(いっぺんに収穫しても食べきれない)
  • 安心して美味しいものを食べたい

ということで、家庭菜園でこそ固定種のタネが向いていると思い、私は最近は積極的に固定種のタネを使っています。『タネが危ない』の中でも「家庭菜園は固定種がいい」と述べられています。

ただ、もしも私が家庭菜園初心者の時点で固定種のタネを使っていたとすると、「周囲の菜園ではきれいに均一に育っているのに自分の菜園は成長も形もバラバラだな・・・」と、自信がなくなっていたかもしれません。野菜づくりに少し慣れてきた今だからこそ、積極的に使いたいと思えます。

伝統野菜は生きた文化財、ぜひタネ採りも

私は社会人農業スクールの卒業生で、卒業生は就農した人も多くいます。そんな中で私は就農することはなく、細々と家庭菜園をしてきましたが、「家庭菜園ってしょせん趣味の一環だし・・・」と、なんとなく引け目を感じていました。

でも、家庭菜園だからこそできることがある、とも思います。NHK「やさいの時間」では「ずっと受け継がれてきた伝統野菜は生きた文化財だ(青葉高さんの言葉)」と紹介されていました。家庭菜園でも伝統文化を守る一助を担えるかもしれない、また、ずっと受け継がれてきたおいしい野菜を自分の手で育てることができると思うと、家庭菜園でもプライドを持ってよいのかなと思います。今は日本だけでなく世界のタネが割と簡単に手に入りますので、世界でずっと受け継がれてきたおいしい野菜を発掘していきたいです。

タネ採りは正直にいうとこれまであまりしてきませんでした。その理由は、育てたい野菜が次から次にでてきて、広さの制約からタネを採っても植える場所がないという理由です。しかし、これからは積極的にしてみようと思います。そう考えると、50平米の貸し農園はやっぱり狭いなぁ・・・

種苗法の改定について

2020年12月2日改正種苗法が成立しました。種採りはできなくなるのかと不安になりましたが、農林水産省の「よくある質問」によると家庭菜園では影響は受けないようです。以下、引用します。リンクも貼っておきます。

(引用)
今回の法改正で、家庭菜園(販売、譲渡を行わない場合)での利用に影響はありますか。
今回の法改正は、自家消費を目的とする家庭菜園や趣味としての利用に影響はありません。

農林水産省 種苗法の改定について よくある質問 より

ただ、山田正彦著『売り渡される食の安全』を読むと、今後の動きについては注意深くみておいた方が良いのかなと思います。

5.野口種苗店の「アロイトマト」は超おいしい

最後に、『タネが危ない』で紹介されている固定種の「アロイトマト」を育ててみました。

アロイトマト

大玉トマトです。

アロイトマト

これが、「うそやん!!」っていうくらい甘くて美味しかったです。何個でも食べられます。

ぜひぜひお試しください。

他にも私がこれまで育てた固定種の野菜でオススメのものがあるので、また別記事でご紹介したいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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